リクルートの研究開発機関であるアドバンスドテクノロジーラボは、信州大学農学部(長野県上伊那郡南箕輪村)との共同研究「水田活用における畦畔(けいはん)管理の効率化に関する取り組み」を2020年12月から開始。人工知能(AI)の活用により、手作業では計測が難しかった畦畔の面積や傾斜角などの情報を可視化する技術を開発、中山間地域における農業課題の解決を目指す取り組みを進めてきた。約半年間にわたる研究の成果と今後の見通しについて10日発表した。
畦畔は、水稲栽培に必要な水を田んぼにためる重要な役割を果たしており、大雨時の一時的な貯留などの役割も担っている。その畦畔を維持するため、漏水を防ぐための畔塗りなどの管理とともに、畦畔の崩落を防ぎ病虫害の発生を抑えるため、定期的な草刈りの作業が必要となる。
一方で、傾斜地の多い中山間地域の水田では、平地と比べて畦畔斜面の面積や角度が大きく、そこでの過大な労働負荷や管理コストの負担が課題となっている。また、畦畔斜面の傾斜角度を考慮した実質的な畦畔面積を測量することは多大な時間と費用を要するため、畦畔農地情報は整備されておらず、中山間地域の水田農業の経営改善が進まない一因となっているという。
本共同研究では、リクルートが培ってきたAI技術および画像処理技術と、長野県林務部が作成した「航空写真×数値標高モデル」でAIモデルを作成する技術を確立し、水田の畦畔面積・傾斜角、農地に占める畦畔の割合(畦畔率)を計測し可視化、長野県全域の水田約5万haに対し、畦畔データ(GIS用座標付ポリゴンデータ)の作成に成功した。
また、この研究結果は、農業工学分野やシステム農学分野の学術学会での報告、さらに各学会誌への論文投稿を行う予定だという。
今後、畦畔データの作成技術はリクルートから信州大学農学部へ移転することによって研究を継続。
信州大学農学部では、作成したデータをベースに水田1枚ごとの畦畔データを作成することで、農家が所有する水田ごとの畦畔の面積・傾斜角、畦畔率の計測を可能にする。また、予測モデルの精度を上げることで、長野県以外の地域においても、同様の結果を得られる高い汎用性を目標とする。さらには、水田の畦畔を含めた全国の農地のGISオープンデータの公開を通じて、県・市町村など地域行政と連携した「農地・畦畔見える化プロジェクト」の発展を目指すという。
若手農家や農業法人の新規参入が進まず、経営規模を拡大しようとしても、平地と比べ傾斜地が多いという条件不利性から、労働費用が多くかかり農業機械の効率化が進まない中山間地域の農業。その課題の一つである畦畔管理作業にかかる費用(人件費・機械費・燃料費)を「見える化」することによって、より適切な耕作管理方法や機械の導入の検討を可能にし、新規参入や経営規模の拡大につなげていくことを最終的な目標に据えている。
一方、リクルートでは今後、今回の共同研究で得られた「低解像度イメージに情報を付加することで高解像度化する技術」と「精度の高いAIモデルを作成するノウハウ」をビジネスに活用することも視野に入れている。
なお、今回の研究結果の詳細については、利用したAIプログラム、AIから出力されたデータを含め、学会などで公開をしていく予定。