深層学習を用いた画像認識技術の社会実装を手がけるインキュビットは29日、気象庁気象研究所が実施している「AIを用いた竜巻等突風・局地的大雨の自動予測・情報提供システム」での2020年度の研究開発において、ドップラー速度データに加えて地形データをAIモデルにて学習することで、竜巻検出AIシステムの汎用性の向上を実現したと発表した。
本成果により、山岳地域が多い日本において、より汎用的な竜巻検知AIの実用化が期待できるという。
また、2021年度においては、竜巻検出AIシステムの研究開発をより発展させ、多様なデータを複合的にAIに学習させることにより、さらに高精度で竜巻を検知できるAIの開発に取り組む予定。
日本では、平均して年に20個以上の竜巻の発生が確認され、家屋の倒壊や時には車両や電車を横転させるほどの甚大な被害をもたらしている。そこで気象研究所では、2018年からAI(人工知能)を活用した竜巻の自動検出技術の開発を進めてきた。
竜巻の検出や予測には、全国各地に設置されている気象レーダーで観測したドップラー速度データが用いられる。ドップラーレーダーは、上空にある雨などの降水粒子からの反射波を用いて、上空の風の速度と方向の傾向が観測できる。このドップラーレーダーを使うと、竜巻が発生している箇所に見られる竜巻渦とよばれる特徴的な風向きのパターンを検出できるため、気象研究所では過去に発生した竜巻から抽出した竜巻渦のパターンの大量のデータを深層学習の手法を用いてAIモデルに学習させ、どこで竜巻が発生しているのかを正確に検出するモデルの開発を進めてきた。
しかし、山岳地域では、その山の地形がドップラーレーダーの反射へ干渉し、観測できるドップラー速度データが平地のパターンと異なる場合がある。例えば、地形に起因する気流の乱れやレーダー電波の山による反射・遮蔽によって、見掛け上、竜巻渦のようなパターンが生じることがあり、ドップラー速度データのみから竜巻を判断するこれまでの手法では誤検出が発生する、という課題を抱えていた。
インキュビットと気象研究所が2020年度に行った研究開発の取り組みでは、山岳地域における竜巻の過検知の抑制を目指し、地形の標高データを特徴量としてAIモデルへ加え、地形特徴を考慮した形での竜巻検知AI の学習を行った。地形データを追加することで、地形の高さがドップラー速度データの観測へ与える影響の関連性を深層学習により学習することが可能になる。
本取り組みで地形データを追加した結果、竜巻を捉える検出率を高い水準で維持したまま、山岳地域における過検知を約50%削減することに成功。本成果により、山岳地域が多い日本においても、地形の特徴に依存せずドップラーレーダーの設置箇所を問わない、汎用的な竜巻検知AIの実用化が期待できる。
インキュビットと気象研究所は2021年度においても本取り組みの成果をさらに発展させ、時系列変化の情報、広範囲の雨量データ、一般風のデータなどの多様なデータを複合的にAIに学習させることにより、さらに高精度で竜巻を検知できるAIの開発に取り組む予定。
また、竜巻検出システムは、鉄道をはじめとする様々な高速交通の安全性の向上や自動運転技術への利用につながると期待されている。将来的には、突風の影響を受けやすいドローンなど、さまざまな分野への適用も視野に入れているという。