花王メイクアップ研究所は7日、人工知能(AI)技術のひとつである深層学習を用いて多様で繊細な肌の質感を評価・可視化する「肌評価AI」に、さらにヒトの感性を学習させ、肌の精緻な解析とヒトの視点・判断をあわせ持つ「Kirei肌AI」を開発したと発表した。
ヒトは肌の色・質感のわずかな違いからさまざまな情報を読み取り、印象の変化を感じ取っている。花王は2021年1月に、多様で繊細な肌の質感を評価・可視化する「肌評価AI」を開発したことを発表。この技術は、顔画像から切り出した小領域肌画像“肌パッチ”をAI技術のひとつである深層学習(ディープラーニング)で学習することを特徴としており、「素肌と化粧肌」「化粧直後と時間が経った後」など、さまざまな肌状態のわずかな質感の違いを識別することが可能。しかし一方で、メイクアップしたときの肌の印象を的確に評価するためには、“その肌を見て、ヒトはどう感じるか”というヒトの視点の学習が必要ではないかと考えた。
例えば、ヒトの視点が非常に重要な肌質感のひとつとして、“つや”がある。“つや”は、表面の光沢をあらわす言葉だが、肌においては、好ましくない光沢は“テカリ”とされ、美しい光沢であるつやと区別される。マットな肌、化粧くずれでテカリのある肌、なめらかで美しいつや肌を比べた際(図1)、過去に開発したAIではテカリのある肌を「光沢が強い」という評価しかできなかった。「つやではない」と判断できるのは、肌の印象を的確に捉えられるヒトの目の特徴。
花王には、目視評価の訓練を積んだ「専門判定者」が肌の色、つや、肌トラブルなどを評価する仕組みがあり、図1のような肌を正確に評価可能。そこで今回、既存の「肌評価AI」にヒトの感性そのものである「専門判定者の判断」を学習させることで、肌の精緻な解析とヒトの視点・判断をあわせ持つAIの開発を試みたという。
今回開発した「Kirei肌AI」は、専門判定者のつや評価(以下、「視覚的つや」)の基準に則り、機器では客観的に評価することが難しかった肌のつや感を高い精度で予測することが可能。
花王はさらに、この「視覚的つや」指標と、既存の肌評価AIが評価するつや・光沢に関連するその他の指標を同時に出力することで、つやの多面性をとらえることができるのではないかと考えた。そこで、日本人女性266名のメイク塗布前後の顔画像1596枚を用いて、「視覚的つや」とつや・光沢と関連すると考えられる3つの評価項目についてAIで評価を行ない、評価項目間の関係を確認した。
その結果、「視覚的つや」は「化粧くずれ度」と負の相関を示し、「Powderly/Glossy」とやや強い正の相関を示した。「Powderly/Glossy」と「Dry/Wet」は強く相関しましたが、「Dry/Wet」は「視覚的つや」との相関が高くなかった。
これらの結果から、AIは、専門判定者が“つや”と“テカリ”を明確に区別し、メイクアップによるつや仕上がりのような美しいつやを「視覚的つや」と評価していることを的確に学習したと考えられるという。
今回、既存の肌評価AI技術をさらに進化させ、肌の精緻な解析とヒトの視点・判断をあわせ持ち繊細な質感を評価・表現できるAI技術の開発に成功。今後はこのAI技術を、魅力的な製品開発やユーザーに対するカウンセリングの充実に向けて積極的に活用していくとしている。